大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所 昭和49年(家)2270号 審判 1974年10月22日

申立人 上野綾子(仮名)

相手方 宮本武三(仮名)

事件本人 宮本徹(仮名)

宮本貢(仮名)

主文

事件本人らの親権者に申立人を指定する。

理由

一  本件申立の要旨

申立人と相手方とは、昭和三三年六月事実上の婚姻をし、昭和三四年三月九日正式に婚姻し、同年二月二七日事件本人長男貢を、昭和三五年九月一二日事件本人二男徹をそれぞれ儲けた。ところが相手方は徹が出生したころから吉村侑子と情交関係をもち、同年末ごろから多久市において同女と同棲をはじめた。昭和三八年ごろ、貢が赤痢にかかり危篤状態になつたため、申立人が相手方に連絡したところ、相手方は徹の面倒まではみられないだろうといつて徹を連れて行き、更に貢の看病疲れのため申立人が入院する際、貢をも連れて行つた。相手方は貢を○○○○園にあずけ、徹の世話は侑子にさせていたが、昭和四八年一〇月ごろ侑子が家出をしたため同年一二月二〇日ごろ徹を申立人のもとに連れて来て、申立人に引取らせた。以来申立人は徹を手許で養育し、貢については毎月三〇〇円の負担金を○○○○園におさめている。

ところで申立人は、昭和四九年六月ごろ、参議院議員の投票券をもらつたところ、姓が変つているので調べたところ、同年四月二二日事件本人らの親権者を父である相手方と定め、申立人と相手方との協議離婚届出が提出されていることが判明した。申立人は、以前から相手方との離婚を考えていたので協議離婚届出は追認してもよいが、事件本人らの親権者を相手方とすることは認められないから、事件本人らの親権者を相手方から申立人に変更することを求める。

二  当裁判所の判断

昭和四九年(家)第二一七一号記録中の戸籍謄本二通、家庭裁判所調査官河野善治作成の昭和四九年八月八日付、同遠藤富土子作成の各調査報告書および申立人審問の結果を総合すれば、本件申立要旨記載の事実および相手方は徹を申立人から引取つた後も転職をくりかえし、昭和四八年ごろからは稼働せず、やむなく侑子が稼働して生活をささえていたこと、また相手方は飲酒にふけり、侑子や徹にしばしば暴力を振つていたこと、徹は侑子を非常に慕つているが、相手方に対しては強い嫌悪の情を有していること、相手方は昭和四九年七月ごろからは所在不明になつていることが認められる。

ところで、申立人と相手方との協議離婚届出は、上記認定の事実によれば、申立人に無断でなされたものであるから無効である。しかし、申立人は昭和四九年一〇月一六日当裁判所において協議離婚届出を追認している。申立人は事件本人らの親権者の変更を求めているが、協議離婚届出を追認しても、追認の効力は親権者の指定に及ばないから親権者の指定は無効として、改めて親権者を指定すべきことになる。

そこで、事件本人らの親権者を父母いずれに指定するのがよいかについて考えるに上記認定の事実によれば、相手方は所在不明であるに対し、申立人は事件本人徹を現に養育し、事件本人貢についても、施設に負担金をおさめるなどして、その養育について心をくばつていることが伺える。事件本人らの福祉のために申立人を親権者に指定するのが適当であると認められるから、主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡村道代)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例